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ひとろぐって?

 電車の中、待ち合わせ中、ベンチに座っている間…。私たちは生活のあらゆる場面で不特定多数の「ひと」を目にしています。「雰囲気のいいひとだなあ」「この二人はどんな関係なのだろう」そんなことをふと感じても、その根拠をさぐったり、踏み込んで考えたりすることはあまり一般的ではありません。私たち「ひと採集プロジェクト」は、そんな「ひと」に焦点を当てて観察・記録・考察をおこなっています。ある人が特定の場所に、特定の服を身につけ、特定のコミュニケーションを行なっている、それには然るべき状況やバックグラウンドがあるはずです。その根拠を探るように、スケッチをしながら観察していきます。

<モノ>と<コト>を描く

 例えば、電車で向かい側に座った女性が「なんとなく知的で凛としている」と感じたとします。その印象は、女性を構成している物理的要素<モノ>からあなたが得た解釈<コト>です。日常生活において、なんとなくこんな雰囲気、印象といったような<コト>を抱くことはあると思います。しかしそれがどんな<モノ>によってなりたっているのかは案外、暗黙的になっていることが多いのです。下にあるスケッチは私が実際に「知的で凛とした印象」をした女性を記録したものです。頭はコンパクトにまとめられていて、逆に青いゴシック調のスカートは裾が広がっています。髪の毛を巻いて膨張させている女性が多いなかで、このコンパクトにまとめられた髪型にはスマートさを感じます。また上半身がグレーのニットや白いトレンチなどモノトーンでまとめられているので、スカートの青が映えていてシンプルななかにも鮮やかな色彩センスを感じさせます。寝ているけれど体が左右に傾くことなく、姿勢がよく足も揃えられていています。このようにスケッチしていくと、自分がその人のどんな物理的要素に「知的で凛としている」という印象を得たのか。またそれぞれの<モノ>の関係性に対してどのような<コト>を得ているのかが分かります。

なぜスケッチするの?

 観察対象をできるだけ正確に写し取りたいのなら写真という手段のほうが適切といえます。しかし私たちはあえてスケッチという手法を貫いています。なぜならスケッチは観察者の「みているもの」が強調されるかたちで表現されるからです。普段なにげなく見過ごしている「ひと」をつぶさに観察することによって、その人の置かれている状況やバックグラウンドにまで解釈が膨らみ、物語が浮かび上がることもあります。それはモノクロだったぬり絵の本をカラフルに彩るときのようにわくわくする体験です。

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